子どもたちの科学する心を育て70年余、全館リニューアルで魅力を増した仙台市科学館に迫る
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2025年4月5日、HOKUSHU仙台市科学館が全館展示リニューアルオープンしました。前身のサイエンスルームの開設から73年、緑豊かな台原森林公園に隣接する現在地に移転して35年を迎え、リニューアルによりさらに魅力が向上。子どもたちの科学教育の場、市民が楽しく科学に触れられる場として、さらなる役割が期待されています。
弊社は同年4月から仙台市科学館のネーミングライツパートナーとして、市民の科学を通じた地域の学び・交流・創造の場づくりへの貢献を目指しています。
リニューアルをした仙台市科学館に潜り、その歩みと新たな魅力、今後果たすべき役割などを探りました。
人

加藤 民夫さん
HOKUSHU仙台市科学館 館長
1994年仙台市市役所入庁。都市整備局設備課長を経て2024年より現職。

長島 康雄さん
仙台市科学館協議会 会長
東北学院大学文学部教育学科教授。学識経験者や社会教育、学校教育関係者の中から仙台市教育委員会が委嘱する仙台市科学館協議会の会長を務める。

村上ひろみ
株式会社北洲 代表取締役社長
場所

HOKUSHU仙台市科学館
住所:〒981-0903仙台市青葉区台原森林公園4番1号
電話:022-276-2201 / FAX:022-276-2204
公式ホームページ:https://www.kagakukan.sendai-c.ed.jp/
北洲は、2025年4月より「HOKUSHU仙台市科学館」のネーミングライツ契約を仙台市と締結しています。
「ふれる科学、ためす科学」をコンセプトに、
基礎と最先端をバランス良く展示
加藤館長(以下、加藤) 今回のリニューアルでは、「ふれる科学、ためす科学」をコンセプトに、参加・体験型の展示・装置を設計しました。1952年に開設された科学館の前身のサイエンスルーム(仙台市青葉区の錦町公園内にあった仙台市レジャーセンター内に設置)、1968年に開館した初代科学館(現在の同区一番町2丁目の旧長銀ビル地下1階)と、70年以上にわたり一貫してコンセプトとしてきた実験学習を継続して現在に至っています。
リニューアルに当たっては、従前からのバージョンアップと、新たに追加した展示・装置の両方があります。一つひとつの性能が向上し、未就学児から成人、高齢者の方まで、より楽しく科学に触れて興味を持ってもらえる展示・装置になっていると思います。よく「“推し”の展示は何ですか?」と聞かれますが、すべてが“推し”の展示で、一つひとつよく考えて作られていると思います。

村上 鼎談に先立ち、館内をご案内いただきました。ドローンの躍動感ある映像で広瀬川を下流から上流へと遡る「広瀬川スカイアドベンチャー」は、仙台の自然の豊かさを感じつつ、世界的な遊園地のアトラクションにも匹敵するような楽しさでした。センダイゾウの骨格標本にも驚き、ワクワク感を覚えました。子どもたちはもちろん、科学館を訪れる人たちの活きた体験になる展示ですね。

長島会長(以下、長島) 博物館のコンテンツは、しばしば最先端の展示に注目されがちです。
むしろ科学の基礎に当たるコンテンツこそ重要です。科学の基礎に関連する展示は、変わらない価値を持ち続けるからです。一方、最先端のものは次々に更新されていきますから、あっという間に陳腐化します。今の科学の進歩からみれば、最先端の展示は5年もすると古い内容の展示になってしまうでしょう。変化しない基礎科学領域と最先端領域の両者をバランスよく配置することが大事です。その意味でも、基礎的な部分をしっかり展示しつつ、最先端の部分はパネルなどで、職員が更新できる余地を残したのは、今回のリニューアルの素晴らしいところだと思います。
私は北海道から沖縄まで、学会に参加する度に開催地の博物館に足を運んでいますが、博物館の見識の高さはそこでしか見られないものがどれだけあるのか、という点にあると思います。その意味で、センダイゾウの展示をはじめ仙台市科学館には日本中どこに行っても「ここでしか見られない展示」がたくさんあります。
加藤 4階の「科学の探究」ゾーンに元素周期表を展示しています。周期表自体は全国どこの博物館でもありますが、当館は元素そのもの、生成した化合物、自然界に存在する化合物の3セットを周期表に配置するオリジナルの見せ方が自慢です。これはリニューアルについて話し合う中で、アイデアを形にしていきました。

長島 周期表は通好みの展示だと思います(笑)。化合物について勉強した高校生や大学生が見ると、新しい発見がある。なかなかうまい仕掛けになっています。
仙台の中学生の「科学する心」を伸ばす
科学館の実験教育
長島 戦後の貧しく、学校に実験装置がない時代に、仙台市は科学の重要性を認識し、サイエンスルームに実験装置を充実させて、中学生を集め科学の心を育てました。やがて手狭になったため一番丁に初代の科学館に移り、仙台市が政令指定都市に移行した翌年の1990年に現在地に移転しました。
私は大学生の頃、初代科学館で自然観察会のお手伝いをするアルバイトをさせていただきました。当時は科学館が街なかにあったので、広瀬川の化石や青葉山の植物や昆虫の観察会の企画がたくさんありました。その後、科学館での経験が縁となり、科学教育に携わるようになりました。自分の人生に影響を与えた科学館に愛着と恩義を感じています。
中学生を集めて学校ではできないような実験装置を使い、科学する心を伸ばす仙台市科学館の取り組みは、日本の最先端の科学教育の一つの形を体現していると思います。

加藤 実験資料も次々と更新し、2025年7月現在、201番目に達しています。物理・化学・生物・地学の4科目のうち毎年1科目ずつ更新しています。一度途切れてしまうと、新しいものを生み出し、最先端を取り入れる素地が閉ざされてしまいます。科学館職員は指導主事(人事異動で配置された中学校の教員)と事務職員などで構成されていて、担当になった指導主事の先生方はねじり鉢巻きで、2年がかりで準備します。
長島 科学館で鍛えられた指導主事は、教育現場に戻ると、校内研修や教科研究会などを通じて科学館での学んだこと、その経験を伝えることで、仙台市の理科教育の水準を高めていくことに貢献しています。やがて仙台市の理科教育の中心を担うようになって、その意味で人材育成の場にもなっているのではないでしょうか。
村上 長年の取り組みには、とてもストーリー性を感じます。指導主事の皆さんの情熱の連鎖ですね。
長島 親子が共に中学生時代に実験教育を経験することで、共通の話題ができます。世代間の科学の心をつなぐ面でも、科学館の取り組みは大きいと思います。
日々の暮らしの中で大人が素直に驚く姿が、
子どもの科学の心を育む
村上 当社は住宅メーカーとして、「CULTURE via LIFE」をスローガンに、日々の暮らしを文化へと引き上げることを目指しています。日々の暮らしの中で、子どもたちの科学の心を育むために、大人たちはどのようなことができるでしょうか。

長島 私には歩いて行ける距離のところに住んでいる幼稚園の年長クラスに通う孫がいるのですが、その孫が鉢植えのオジギソウを育てることになりました。花を咲かせることを目標にして世話を続けています。
オジギソウの成長とともに鉢が手狭になってきたので、「じいじが鉢を分けてもいい?」と提案し、2つに分けました。雨や風にさらされる屋外をきらった孫は室内の鉢を選び、残った屋外の鉢が私の担当になりました。「どっちが先に咲くか競争しよう!」がスタートしたのです。
日が経つにつれて、孫の鉢は室内で日当たりが弱く、もやし状に背丈が伸びていきましたが、私の鉢は日当たりのいい外で横にがっしり広がり緑が濃くなっていて「どっちが先に咲くかな?」と孫は毎日のように見比べています。
大人が一緒になって、ちょっとした工夫をしながらきっかけをつくると、子どもは興味を持って食いついてきます。日々の暮らしの中で、大人が子どもと一緒になって驚き、その姿を子どもに見せるのがとても大切だと思います。


村上 親自身が好奇心を持つことが大事ですね。
長島 料理も面白いですね。コップに氷を入れて置いておくと結露ができるので、「この水(結露)はどこから出てきたのかな?」とか。日々の暮らしの中でいえば、料理にも好奇心を引き出す手がかりがあるように思います。
村上 答えを与えるのではなく、問いを投げかけるのですね。
地域の大学・企業・ボランティアとともに
学校・社会教育で役割果たしたい
加藤 科学館の事業には、学校教育施設と社会教育施設という2つの柱があります。教育施設としての科学館学習と展示学習は、当館が誇れるものであり、今後も継続していかなければいけません。社会教育施設としては、地域に親しまれ、小さな子どもから高齢者まで楽しめることが使命です。おかげさまで、コロナ禍前の1.5倍近い入館者数で推移していますが、これを維持していくためにも、ソフト面の充実などさらに努力していきたいと思います。
また、リニューアルのコンセプトの一つに、防災教育も基本理念として盛り込まれています。3階の「生活と科学」ゾーンには、地震の揺れが体験できる「グラリくん」や、台風や竜巻など気象の仕組みが分かる装置、防災・減災にかかわる展示があります。東日本大震災を経験した仙台市の科学館として大事にしたい役割です。

長島 科学館に在籍している先生たちは、震災以降も忙しい仕事の合間を縫って七北田川の河口の蒲生干潟を継続調査し、データを取って研究報告にまとめています。博物館施設には、先人が見つけたものを継承する役割に加え、その先、新しい知見を作っていく仕事もあり、仙台市科学館はその役割も果たしています。それが先生方の力量アップにもつながり、教育現場に戻ったときに経験やスキルを広めることにもなっています。
また、震災のときには、被災した沿岸部の博物館施設の展示物をお預かりし、当館のエントランスで展示するなど、被災した博物館を後方支援しました。そこで果たした役割は全国科学博物館協議会でも高く評価されています。
加藤 大学や企業との連携では、学都仙台を構成する大学、高等専門学校や工業高校などと協力して展示を充実させ、今後も大学や民間企業から講師を招いての講演会開催や、新しい展示の追加なども考えています。
ボランティアの方々と共に運営の充実にも取り組んでおり、サイエンス・インタープリターとして60名以上、学生ボランティアも20名以上います。他の政令市も含めた科学館の中で、これほど多くのボランティアが活動している施設はないと聞きます。
長島 大学で様々な科学を担当してきた元研究者や小学校や中学校を退職された元教員、元科学館職員など専門的な知識を持つボランティアの方々も多く活動されています。
村上 科学の基礎と最先端を展示し、常に実験教育の内容を更新していくという仙台市科学館のみなさんの取り組みに情熱を感じます。だからこそ、子どもの頃に来館した人たちが大人になってボランティアとして活動している。戦後のサイエンスルームから現在の科学館までの歩みを伺う中で、仙台から日本の科学技術を支える人材が輩出している事実をひしひしと感じました。当社が仙台市科学館のネーミングライツパートナーとして、市民の科学の学びに貢献できることに改めて感謝申し上げます。
HOKUSHU仙台市科学館の「ふれる科学、ためす科学」
3F「生活と科学」ゾーン
「チャレンジ・ラボ」「自然と災害」「自分のふしぎ」「ワンダータワー」「乗り物ガレージ」「感覚のふしぎ」、大学や企業等との「連携ラボ」の7つのゾーンで、くらしの中のさまざまな不思議を体験!

4F「宮城・仙台の自然」ゾーン
宮城・仙台の大地の成り立ちを伝える「大地の記憶」、五感を使いながら豊かな自然の標本を思い思いに観察できる「見方の森」、高い天井を生かした迫力の樹木ジオラマなどで構成させる「自然への入口」など、自然界のしくみをあらゆる角度から体験!

4F「科学の探究」ゾーン
探究の導入には、長さ、重さ、面積、体積、時間の科学の基本を身の回りの事象と関連づけて体験しながら学べる「サイエンスユニット」があり、科学の原理・法則や科学の不思議について、実験や体験ができます。
