健康に暮らせる家とは?住宅の断熱化と健康に関する全国調査から見えてきた「暖かい家」の重要性
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冬季の室温を18℃以上に保つよう世界保健機関(WHO)が推奨し、日本でも厚生労働省が建築・住宅分野と積極的に連携した健康社会づくりを呼び掛けるなど、住まいの断熱性能を高めて健康を守ることが強く意識されています。
今回、住宅の断熱化と健康に関する全国調査に携わる慶應義塾大学の川久保俊准教授を北洲本社へ迎え、調査を通じて明らかになった住宅の温熱環境を巡る日本の現状、寒い家がもたらす健康リスク、家の断熱性能を高めるポイントについて詳しく伺います。
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川久保 俊 さん
慶應義塾大学 システムデザイン工学科 准教授
慶應義塾大学理工学部後期博士課程修了後、法政大学デザイン工学部教授を務め、2024年より現職。博士(工学)。建築・都市・社会システムのサステナビリティデザインに関する研究に取り組むとともに、健康住宅や健康なまちづくりに関する研究を進める。(一社)日本サステナブル建築協会「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査」では、調査・解析小委員会の委員を務める。

村上ひろみ
北洲株式会社 代表取締役社長

石原英喜
北洲総合研究所 所長
場所

北洲本社
宮城県富谷市成田9丁目2-2
「人々が長い時間を過ごす住宅は健康にも貢献する」
WHOガイドラインをきっかけに始まった全国調査
村上 川久保先生は住宅と住まう人の健康との関係について研究されています。本日は、先生も委員として取り組まれている「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査」(一般社団法人 日本サステナブル建築協会、以下「全国調査」)で明らかになった知見について伺いたいと思います。まずは全国調査を始められた経緯について教えてください。
川久保さん(以下、川久保) 私が大学生だった2007年、恩師である村上周三先生(現在、(一財)住宅・建築SDGs推進センター顧問、東京大学名誉教授)と伊香賀俊治先生(現在、(一財)住宅・建築SDGs推進センター理事長、慶應義塾大学名誉教授)が中心となり、国土交通省が健康維持増進住宅研究委員会を立ち上げました。同委員会では、「人々の暮らしの基盤であり、人生の中で長い時間を過ごす住宅は健康にも貢献する」との仮説のもと研究が進められ、たくさんの知見が得られました。
これを全国に展開してさまざまな住宅の実態を調査し、住宅と健康の関係性を検証しようと始まったのが全国調査です。国土交通省の「スマートウェルネス住宅等推進事業」における調査として、全国約2,000世帯(4,000人)の方々にご協力いただき実態調査を行っています。
村上 世界保健機関(WHO)は住宅と健康についてのガイドラインを出しているんですよね。
川久保 そうなんです。WHOはガイドラインの中で、冬季の室温を18℃以上に保つことを強く勧告しています。イギリスやニュージーランドなどの調査では、室温が18℃を下回ると循環器系や呼吸器系の疾患リスクが高まることが観測されており、ガイドラインではさらなる調査研究の継続によるエビデンスの蓄積が各国に勧告されました。
こうしたきっかけで日本でも実態調査が始まり、対象となる住宅の室温計測、居住者の疾病を調べ、血圧を測定するなど健康状態を把握し、現在進行形で調査が行われています。
村上 先生ご自身はどういうきっかけで研究に携わるようになったのですか。
川久保 個人的な話になりますが、そもそも私がなぜこの研究に携わることになったのか、少しお話しさせてください。
私は幼少期をイギリスで過ごしたのですが、築50年、100年の家でも冬季の室内はすごくポカポカで暖かいんです。多くの家にセントラルヒーティングシステムが導入されていて非常に快適。ところが日本に帰国して日本の家の寒さに驚きました。幼心に日本は先進国なのに、なぜこんなに家の中が寒いのだろうかと思いました。実際に冬に風邪をひく回数が増え、アレルギー性鼻炎もひどくなり、家の環境に何か原因があるのではないかと子供心に思ったことがあります。
やがて大学で建築環境工学を学び、空気質や温熱環境の良い家に住むことは家族の病気の予防につながるのではないか、さらには良い家に住む人が増えて病気の予防につながることによって医療資源のひっ迫や介護費用の軽減にも貢献し、我々の生活の質を高める意味でも重要ではないかと考えるようになり、住環境と健康に関する研究に取り組み始めました。
村上 先生ご自身の経験が、建築を目指し、温熱環境を重視した研究へとつながっていったのですね。
日本では最も寒い朝方に室温18℃以上の家がたった1割
村上 全国調査ではこれまでに具体的にどのようなことが見えてきたのでしょうか。
川久保 重要な知見をいくつかご紹介すると、まずは冬場に暖房を使用している時間帯でもWHOが推奨する室温18℃以上を満たす住宅が日本では4割しかない実態が明らかになりました。
特に、朝方のとても寒くなる時間帯では、室温18℃を満たす住宅が1割にも満たないのが現状です。寝室や脱衣所に至ってはたった一日の平均室温18℃以上の家はたった1割しかありません。ほとんどの日本の住宅がWHOの基準を満たしてないという意味で、「ひどい状態」です。こうした実態を国民全体で共有し、より良い健康を追求する上で「住まいの温熱環境から改善していきましょう」ということを国民運動にしていかなければならないと考えています。

村上 長年『暖かい家』を追求してきた私たちにとっても、現状がそこまで深刻だというのは驚きです。
川久保 多くの住宅建築関係者は「日本の家作りは世界最先端であり、実現されている環境も当然素晴らしい」と思っていたはずです。
しかし、いざ蓋を開けて実態を調査してみると、実はかなりまずい状況にあることが分かってきました。この厳しい現実を、これからどう改善し、実際の家作りにフィードバックしていくか。それが今、まさに議論されるべき重要な局面に来ていると考えています。
村上 具体的に、住まいの寒さは私たちの体にどのような影響があるのでしょうか。
川久保 私の恩師の村上先生、伊香賀先生、研究室の後輩にあたる海塩先生らの研究によって、室温18℃を下回ると高血圧につながるというエビデンスが得られています。例えば室温20℃の家と10℃の家で起床時の血圧を比較すると、若年層でも4~5mmHgほど血圧が上昇します。年齢層が上がると変動幅がさらに開き、70~80代では10mmHgほど上昇します。
また、脂質異常症、つまり高血圧や糖尿病につながる血中脂質(コレステロール)のバランスの悪化と温熱環境の関係についても分かってきたほか、家全体が寒いとリビングなどの暖かい部屋にこもり、家の中での活動量が低下することも明らかになってきました。暖かい家は快適なだけでなく、良好な健康状態を保ち体力を維持する上でも極めて重要です。
村上 住まいの温熱環境が活動量や脂質にまで影響するのですね。
川久保 家を新築・改修する際に、断熱をしっかりして暖かい家づくりをすれば高血圧を防ぐことにつながるといえます。医学部との共同研究を通じて、住まいの温熱環境が住まう人の健康状態に影響を与えることが明らかになりつつあります。
年齢や男女といった属性による違いも確認されており、一般的に女性は男性より血圧が低いのですが、例えば暖かい部屋からそれより室温が10℃低い部屋に移動した場合、女性の血圧の上昇幅は男性より大きくなります。一般的に女性は男性より体格が小さい方が多く、環境から受ける影響が大きくなると考えられ、女性のほうが寒さに弱いことは血圧の上昇幅のデータにも表れています。女性や高齢者ほど家を暖かくすることで血圧の上昇を抑制できるといえます。

石原 住宅の温熱環境と活動量の低下との関係など調査で明らかになった結果はとても参考になります。改めて日本の住宅の9割が寒いという現状を改善していかなければと感じます。
川久保 子どもたちへの影響についても注意が必要です。ご存じのように暖かい空気は部屋の上の方に行き、冷たい空気は下にたまります。子どもたちは大人に比べて床面に近い高さにいるため、より寒い環境にさらされています。また、歩いたり動いたりしたときに舞うほこりを吸う量も子どもたちの方が多くなります。子どもたちの健やかな成長の面からも、暖かい家との関係性の解明が私はかなり大事だと思います。
私たちは年齢を重ねるにつれ、次第に体が弱っていきますから、住環境から受ける影響というのも強まります。それだけに、温熱環境の良い家に住み続けることは極めて重要です。しかも温熱環境の良い家に住み続けた場合と、良くない家に住み続けた場合では、時間の経過とともに健康格差が拡大してしまいます。なるべく若いときから良い家に住み続けていただくことが重要ではないかと思います。
村上 先生がおっしゃる良い家とは、暖かい家を意味しているのですか。
川久保 冬暖かく、夏涼しく、空気がきれいで適度に太陽光が入るなど、さまざまな要素がありますが、そうした要素の総体が良い家と捉えていただければと思います。
石原 良い家というのは当然住む方によって違いがあると思いますが、「暖かい家は健康リスクを低減できる」というデータが得られていると伺い、暖かい住まいこそが暮らしを支える基盤になるのだと、改めて実感しました。
断熱改修追跡調査から見えてきた
夜間頻尿や骨粗しょう症など慢性疾患との関係
村上 全国調査では断熱改修前後の調査に加え、改修5年後の追跡調査もされています。継続的な調査にはどのような意義があるのでしょう。
川久保 断熱改修5年後追跡調査は、改修による健康改善効果が一時的なものではなく、長期的に持続するかどうかを検証する目的で行っています。住環境と居住者の健康状態の関係性を分析する際には、ある特定の1時点だけでなく2時点、3時点、4時点と継続的なデータを取ることが重要です。例えば、ある年のある人の住まいの状況と健康状態を調査してそこに何らかの関係性が見られたとしても、住環境が良いから健康なのか、健康な人が良い住環境を選んだのか、因果関係が分かりません。
その結果、高血圧、心疾患、喘息については、住環境が要因となり居住者の発症割合が抑制されていることが分かりました。数年間データを収集し続けることで、より自覚しにくい慢性的な疾患の発症との関連性が見えてきました。

村上 先生は追跡調査の速報も担当されていますが、その中で特に注目している分析をご紹介ください。
川久保 博士課程時代に共に研究をした北九州市立大学の安藤先生の研究成果によれば、夜間頻尿(過活動膀胱)について、寝室の温度ではなく就寝直前のリビングの温度が関係していることが分かってきました。就寝1~2時間前に暖かいリビングで過ごしていたかどうかが、夜間にトイレに行く回数に影響しているようです。夜に熟睡できないと疲れがたまり、眠気から集中力が低下するなど、仕事や日常生活にさまざまな影響を及ぼします。
また、特に40代以降の女性で発症する方が増え始める骨粗しょう症に関しても、暖かい家に住んでいる方のほうが発症しにくいのではないかというデータが得られています。今後の分析で因果関係や細かなメカニズムを証明する必要があります。
費用対効果の高い「窓」の断熱性能向上が重要
結露の発生防ぎ、アレルギーや呼吸器系疾患を抑制
村上 当社は長年にわたり、住宅の温熱環境を高めるため断熱性能や気密性の向上などに取り組んでいます。一方で、お客様から「断熱や気密などの性能が高い家は費用もかかるのではないか。どこに最もポイントを置いた家づくりをすればいいのか?」というお尋ねをよくいただきます。
川久保 断熱工事にどのぐらい費用をかければ、どれだけ健康になれるのか、今まさに分析中です。これまでに得られつつある知見としては、窓やドアなどの開口部から天井、壁、床までの全てに費用をかけるのが難しい場合、優先順位が最も高いのは窓だということです。窓は断熱化に要する費用に対して室温上昇が最も大きく、健康改善効果が見込まれ効果的です。
石原 北洲ハウジングでは以前から窓に力を入れており、1985年に本州で初めて樹脂サッシを標準仕様として全てのお客様へのご提案を開始しました。当時はまだアルミサッシが全盛の時代でしたが、熱伝導率の違いに早くから着目し、窓の断熱性能向上につなげようと取り組んできました。長く住んでいただける家づくりへの先輩方の努力を感じます。
川久保 それは素晴らしいですね。
樹脂サッシにすることで寒さが軽減され、快適性が向上するだけでなく、アルミサッシのときに発生していた結露のふき取りというわずらわしさからも解放されます。健康の面でも大きな意義があります。結露が発生すると窓の桟にずっと水がたまりカビが発生し、カビ由来の胞子などが空気中に舞い、空気が汚染されてアレルギー性疾患が増えることが分かっています。樹脂サッシにして結露の発生を防ぐことは、呼吸器系やアレルギー性の疾患の発症を抑えることにつながります。
村上 家の中の空気の質も住まう方の健康にとって大事ですね。
川久保 空気の良い家に住んでいると、呼吸機能つまり肺活量の維持に役立つことも分かってきました。その意味でも、お客様に寄り添う御社の取り組みは時代を先取りしていたといえます。
温熱環境は睡眠の質や在宅ワークの生産性にも影響
暖かい家は健康、快適性、生産性も高める
川久保 昔から「春眠暁を覚えず」ということわざがありますが、私は「そんなことってあるのかな?」と思っていました。でも、言われてみれば確かに春は気持ちよく眠れている気がして、それは心地よい時期だから眠れているのではないかと思いました。ということは、秋も同じようによく眠れるのではないか。逆に夏や冬は暑かったり寒かったりして睡眠の質が下がるのではないか。10年ほど前に私はそんな仮説を立て、医療機器メーカーが作った睡眠計を使って1年間にわたり毎日の睡眠時の温度や湿度を計り睡眠の質を測定し、温熱環境と睡眠の質の関係を調査しました。
その結果、春と秋は睡眠効率が良く、夏と冬は睡眠の質が下がることが分かりました。さらに、暑がりの人は夏に、寒がりの人は冬に激しく質が下がっていました。温熱環境の良くない家に住んでいると、睡眠の質にまで影響が及びます。
また、コロナ禍以降普及した在宅ワークの質と家の温熱環境もかなり関係していることが分かってきました。実験では室温が同じ23℃でも、床が暖かい方の部屋では足元の血流が良くなり足の体表面温度が上がって快適性が高まり、集中力が高まっていたのです。昔から「頭寒足熱」と言われますが、冬でも暖かい環境を整えることは快適性と健康を高め、さらに在宅ワークの生産性を高めると言えるでしょう。

村上 健康な暮らしについて考えている皆さまへのメッセージをお願いします。
川久保 生活習慣を良くすることで健康を維持する、生活習慣病予防の重要性と同時に、最近では「生活環境を良くする」重要性が注目されています。寒い家に住み続けることでさまざまな疾病のリスクを高める(生活習慣病ならぬ)「生活環境病」という言葉も取りざたされるようになりました。生活環境に配慮してより良い温熱環境に身を置くことで、自らと家族の健康を守ることができます。冬でも暖かく、夏は涼しく、空気質の良い住環境を整えることが、健康で快適なウェルビーイングな社会をつくると信じています。
村上 本日は貴重なお話をありがとうございました。私たち北洲はこれからも「暖かい家は、人生を豊かにする」ことを一つでも多くのご家庭に届け、お客様の健康、暮らしを、住まいから支えてまいります。