エネルギー自立で豊かな暮らしを目指して。東北大学×北洲、15年の挑戦。

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住宅の「断熱・気密」というハード面を極めてきた北洲と、エネルギーの基盤となる「蓄電技術」を研究してきた東北大学・田路和幸先生。この両者の協働は、まだ住宅用蓄電池が一般的ではなかった2009年から、北洲という「実験場」で始まりました。震災という大きな転換期を乗り越え、産学官の枠を超えた実証を経て、いま見据える「エネルギーコストゼロ」の未来とは。

田路 和幸(とうじ・かずゆき)さん

東北大学 名誉教授

1953年兵庫県生まれ。1981年8月、学習院大学大学院自然科学研究科化学専攻中退。理学博士。文部科学省分子科学研究所助手を経て、東北大学大学院工学研究科助教授、教授を経て2003年より東北大学大学院環境科学研究科教授、2010年より同大学院環境科学研究科長を歴任。ナノカプセル素材に関する研究により2008年に文部科学大臣表彰科学技術賞受賞。2009年に「環境エネルギー技術研究所」を設立し蓄電技術の社会実装を主導し、日本の分散型エネルギー研究を牽引。株式会社北洲とは2009年から高性能蓄電システムに関わる共同研究を続け、2026年ひとつの節目を刻んだ。

村上ひろみ

北洲株式会社 代表取締役社長

場所

北洲本社 

宮城県富谷市成田9丁目2-2

環境省プロジェクトから始まった、未知の「蓄電池」への挑戦

村上  先生と弊社との共同研究の原点は、2009年に先生が設立されたNPO法人「環境エネルギー技術研究所」でしたね。

日経新聞の東北版で研究所設立に関する記事を拝見し、「これから太陽光発電を貯める時代が来る」という言葉に、専門外ながらも非常にワクワクしたのを覚えています。

田路先生(以下、田路)  東北大学が持つ環境エネルギー技術を世の中に広めることを目的に、大学と民間の架け橋としてプロジェクトを進めていました。その実証の舞台として、2009年から北洲さんの実験住宅「ベクサス」に、東北大学NECトーキン株式会社(現:(株)トーキン)とで共同開発した、当時としては家庭用リチウムイオン蓄電池として類を見ない規模の10kWh蓄電池を設置し、実験をスタートさせました。

あの頃は、まだ太陽光発電システムも一般的ではなく、リチウムイオン蓄電池もモバイル機器用途が主流でした。「家一軒を支える蓄電池は普及しない」というのが一般的な見方で、大型蓄電池はほとんど存在していない時代でした。
しかし、環境問題を考えれば分散型エネルギーシステムは不可欠になると確信し、検証を開始しました。住宅に蓄電池を導入した実証としては、世界的にも先駆的な試みだったと言えると思います。

田路先生と共に「エネルギーの未来」を検証し続けた、北洲の実験住宅「ベクサス」
実験スタート時の10kWh蓄電池

実体験から生まれた「E-Box」と産学官連携

村上  2011年の東日本大震災では、停電の中、ベクサスにあったポータブル蓄電池で携帯電話を充電することができました。貴重な情報源を確保することができて本当に助かりました。

田路  あの震災で電力が止まった経験は、世の中にとっても、私たちの研究にとっても大きな転換点でしたね。当時のポータブル蓄電池はまだ容量も出力も小さく、「いざという時には、より高出力な機器が必要だ」と痛感しました。

そこで同年6月には、ソニー株式会社の中鉢副会長の協力もあり、当時販売間近であったソニー製蓄電池を用いて、ソニー株式会社と共同で蓄電システムの開発をベクサスで開始しました。

このシステムに用いる「見える化」技術については、ベンチャー企業の有限会社エボテックと連携して開発を進めました。北洲さんからは「発電」「蓄電」「購入」をオブジェで色分けして表示することで、直感的に判別できるアイデアを出していただきましたね。目に見えない電気を可視化し、行動変容を促す工夫は、住宅メーカーである北洲さんならではの視点でした。

村上  ありがとうございます。これらの成果を踏まえ、2011年11月には住宅商品「E1」にエネルギー拡張性を持たせた「E1-basis」を発売し、将来的な蓄電池導入を前提とした「E-Box」を導入しました。

田路  「E-Box」は非常に画期的なアイデアでした。

一般的な住宅の電気配線は非常に複雑ですが、「E-Box」では冷蔵庫や照明といった“生命線”となる回路をあらかじめ特定負荷として集約し、非常時にはこれらの回路に電力が供給されるように設計されていました。
この「将来を見越した配線の整理」という発想は、当時のハウスメーカーでは極めて稀なものでした。

その後、2012年からは東北大学大学院環境科学研究科東北経済産業局仙台市ガス局ソニー株式会社本田技研工業株式会社株式会社ノーリツなどとの産学官連携により、太陽光、蓄電池、エコウィル(家庭用コージェネレーション)を組み合わせた自立型住宅の検証へと発展していきましたね。

村上  2013年には、北洲が国土交通省仙台市が主導する仙台市田子西地区のスマートビレッジ実証に参画し、田路先生をはじめ、東北大学名誉教授の吉野博先生東北大学大学院教授 小野田泰明先生にご助言をいただきながら、V2H(Vehicle to Home)の導入など、コミュニティ単位での実証を進めることができました。

北洲のE-BOXと一般的な住宅の配線の違い
15年、共に歩んだ研究の場「ベクサス」での様子

住宅メーカーの域を超え、研究の「場」を支え続ける

田路  普通の企業では、ここまで長期間にわたり研究の場を提供することはなかなかできません。関心を示しても、実際の実証にまで至らないケースがほとんどです。
しかし北洲さんは、15年以上にわたり実験棟を提供し続けてくださいました。外部の多様な知見を柔軟に受け入れ、自社で汗をかいて実用的な形に落とし込む。この「開かれた挑戦心」こそが北洲の強みだと思います。

だからこそ、2018年からはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業として、日産リーフ(日産自動車株式会社)の車載蓄電池を再利用した「直交流ハイブリッド電力システム」の技術開発もベクサスで進めることができました。
その実証として、2020年には北洲本店(岩手県北上市)において、太陽光発電と蓄電池を活用した直流給電型社屋エネルギーシステムを導入し 、照明設備への給電による実運用検証を開始しました。

太陽光発電の直流給電システム実験実証の場となった北洲本店

また同年には、環境省の委託事業の実施場所としてベクサスが活用され、本田技研工業株式会社のHEVであるホンダ フィットに搭載された駆動用リチウムイオン蓄電池を再利用した蓄電システムの研究開発もスタートしました。
2021年からはこれらの成果を発展させ、伊藤忠エネクス株式会社本田技研工業株式会社とともに、事業化に向けた検討も進めてきました。

村上  国のプロジェクトの実験場として選んでいただけたことは、北洲としても大きな誇りです。

新たな挑戦と外部環境の変化

村上  2021年には「北洲からもっと“かっこいい”蓄電池を」という発想から、門柱内部に蓄電池を組み込む「E-Pillar(イーピラー)」の社内デザインコンペを実施しました。この取り組みは2023年に宮城県の補助事業にも採択され、先生のお力を借りながらベクサスでプロトタイプ開発を進めました。

田路  北洲さんが大切にしているデザインと、私の技術が融合した非常に面白い試みでしたね。

ただ、半導体不足や中古車市場の高騰、円安の影響で中古車が海外に流出し、国内でリユース電池の確保が難しくなったことから、最終的には断念せざるを得ませんでした。
不可抗力ではありましたが、「安価な蓄電システムを目指す」という方向性自体は正しかったと考えています。この経験は、現在の日産リーフの車載蓄電池を活用した資源循環型蓄電システムの開発に確実に活かされています。

社内公募から選ばれたのは建物やエクステリアと一体となる蓄電池と門柱のハイブリッドデザイン

夢は「エネルギーコストゼロ」 心の豊かさと、資源循環が共存する未来

村上  先生がこれから目指す夢はなんでしょう。

田路  私の夢は最初から一貫していて、「エネルギーにお金をかけず、無尽蔵に使いながら生活できる社会」、すなわち「エネルギーコストゼロ社会」の実現です。原点は、かつてのアメリカでの生活体験にあります。当時は水も電気もガソリンも非常に安く、環境面の是非は別として、エネルギーの安さが人間の欲望をのびのびと肯定し、心の余裕と豊かさをもたらしていました。

村上  それが先生の掲げる「CULTURE via LIFE」、豊かな暮らしの追求なのですね。

田路  エネルギーコストがゼロに近づけば、資源循環も自然に進みます。その実現には、北洲さんが培ってきた高い設計力・構造技術という“土台”が不可欠です。その上にエネルギー自立が加わることで、住まいの価値はさらに高まります。今後も、住む人の満足だけでなく、社会や環境にも貢献できる家づくりに挑戦し続けてほしいと思います。

村上  先生の描く未来を、北洲の住まいを通じて実現できるよう、これからも一歩ずつ取り組んでまいります。

北洲本社前にて。田路教授(左から2人目)を囲む村上社長と北洲総合研究所のメンバー