震災の教訓を未来へ。地震大国・日本で“命を守る家”の新基準。wallstat開発者と語る、耐震シミュレーションの真価。

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東日本大震災の被災地を拠点とする北洲は、あの日以来15年にわたり「繰り返される巨大地震から、いかにお客様の命を守るか」を問い続けてきました。その答えとして磨き上げられたのが、耐震性能と制震性能に優れた「サステナブル耐震®」の新築住宅への標準採用です※1。

2025年12月、北洲はこの安心をさらに確かなものとするため、新築住宅全棟を対象に、耐震性能を可視化する木造住宅倒壊解析ソフトウェア「wallstat(ウォールスタット)」によるシミュレーションを開始。枠組壁工法(ツーバイフォー工法)において全棟を対象にしたシミュレーションの実施は、住宅メーカーとして先行的な取り組みです。

このたび、「wallstat」の開発者であり、木造建築の耐震性能研究の第一人者、京都大学准教授の中川貴文先生を北洲本社にお迎えし、中川先生のwallstat開発の経緯や信念、日本における住宅の未来の展望を伺いました。

※1:プラン・仕様によっては実施できない場合もあります。

中川 貴文(なかがわ たかふみ) さん

京都大学 生存圏研究所 生存圏開発創成研究系 准教授

東京大学大学院修了後、民間企業を経て、国土交通省国土技術政策総合研究所及び建築研究所にて木造の耐震の研究に従事。2018年より現職。博士(工学、農学)。(一社)耐震性能見える化協会 代表理事を務める。

村上 ひろみ

株式会社北洲 代表取締役社長

場所

株式会社北洲 本社 

〒981-3341 宮城県富谷市成田9丁目2-2

“悲惨な木造家屋の倒壊をなくしたい” 

阪神淡路大震災がソフト開発の原点

村上 wallstatは木造軸組工法を対象とするソフトウェアですが、当社では中川先生にご助言をいただきながら、J建築システム株式会社(本社:札幌市)の協力のもと、枠組壁工法にも使用できるようモデル化を進めました。

北洲が実施するシミュレーションでは、東日本大震災2回と建築基準法で定められる地震波(極稀地震1.5倍・震度6強相当)1回の計3回を入力して解析し、外壁損傷20%以下を判定基準に住宅の安全性を「見える化」しています。本日は、中川先生にwallstat開発のきっかけや普及の先にどのような未来を展望されているのかなどを伺いたいと思います。

中川 この研究は、大学の卒業論文のときから始めて30年近くになります。きっかけは大学1年生の時に発生した阪神淡路大震災(1995年1月17日)でした。私の実家は奈良県で、当時私は東京の大学に進学していましたが、たくさんの木造家屋が倒壊したことにショックを受ける中で、木造の耐震を研究したいと思い卒論に取り組み始めたのがきっかけです。

村上 原点は阪神淡路大震災なんですね。

中川 当時の指導教官もここまで長く取り組むことになるとは思っていなかったのではないでしょうか。大学院を卒業した後、兵庫県に大型構造物の震動破壊実験を行うことができる世界最大の実験施設「E-ディフェンス」ができました。家1棟を倒壊するまで揺らすことができる、wallstatの実写版のような実験施設です。私はこのプロジェクトの一員として参加できたことで、実際に揺らした結果と自分が作ったソフトを検証する機会を得て開発がどんどん進みました。

村上 どのような思いに突き動かされたのですか。

中川 悲惨な木造家屋の倒壊をなくしたいというのが最も強い思いです。そのためにも、E-ディフェンスのような実験をコンピューター・シミュレーションでもっと気軽に、誰でもできるようにしたいとの思いでwallstatを開発しました。

村上 開発のターニングポイントとなったのは何でしょう。

中川 当初は研究者向けにプログラムを配布していましたが、次第に使い勝手が向上していく中で、CADと連携する機能ができました。これが一番のターニングポイントですね。建築士が普段CADを使っている業務の中で、wallstatを使ってシミュレーションができるようになり、実務者にも爆発的に普及するようになりました。

村上 無償で技術を公開したことで、裾野がどんどん広がったわけですね。

さらなる普及へバージョンアップ重ねる

将来的にはエンドユーザーも使えるソフトも

村上 wallstatが普及した先に先生が描いている住宅業界の未来、あるいは他の業界も含めた展望をお聞かせください。

中川 今後もwallstatがどんどん普及していって欲しいとの思いでバージョンアップを重ねています。先日も最新のバージョン6の発表会を開催して、約300人にWebで説明を聞いていただきました。バージョン6では構造計算書を出力できる機能を実装しました。もう少し完成度を高めなければなりませんが、wallstatで計算した結果を建築確認申請に出すための第一歩を踏み出したところです。wallstatが建築確認申請とリンクすれば、もっと爆発的に普及するのではないかと思います。さらに先を見据えれば、審査する側もwallstatを自由に使えることで、審査の迅速化につながればいいですね。建築確認の手段として普及した次の段階として、もうちょっと簡単に審査できるツールにもしていきたいと思っています。

村上 以前は『建築基準法さえ守っていれば大丈夫』という風潮が強かったですが、最近は最高ランクである『耐震等級3』まで確保すべきだという認識が少しずつ広がってきたように思います。業界の変化をどう見ていますか?

中川 昔に比べて非常に変わってきたなと感じます。実際、耐震等級3の普及率もすごく上がっています。トップリーダー的な企業がすごく頑張って耐震や断熱などを引っ張り、底上げされてきたと言えばいいでしょうか。

一方で、いまだに何もやっていないと感じる地域や業者もある印象です。2024年の能登半島地震の被災地を調査したとき、建物は新しく見えるけれど、明らかに耐力壁が入っていないところもありました。

村上 耐震等級3はあくまで「1回の大きな地震」への耐性を評価したものです。繰り返される地震を想定すると、北洲の何度も来る揺れに耐え続ける「サステナブル耐震®」の大切さを改めて痛感しています。

中川 おっしゃる通りですね。今後も南海トラフ地震や日本海溝・千島海溝地震などが起きる可能性が指摘されていますから。

いまだに何も対応していないところが残る状況を解消するためにも、エンドユーザーである施主様自身が知識を得ていくことが大事だと思います。将来的に、施主の方も使えるwallstatのようなソフトが作れればいいですね。

村上 当社ではwallstatの導入に合わせて、北洲の「サステナブル耐震®」の住宅が繰り返しの地震に強いことを分かりやすく確認いただける動画をYouTubeで公開しています(※2)。こうした動きが住宅業界に浸透していけば、施主様にも非常に分かりやすくなりますね。

中川 目で見えるのはすごく分かりやすい。YouTubeならスマートフォンで気軽に見られますからね。

※2北洲が公開する耐震シミュレーションのサンプル動画。東日本大震災の地震波で2回揺らした後、極稀地震の1.5倍の地震波で揺らしたシミュレーションを実施している。
北洲本社ショールームにて、耐震性能の重要性を中川貴文先生と語り合う村上。写真の制震装置は、繰り返される巨大地震からお客様の命を守り続ける「サステナブル耐震®」の核となる制震ダンパー「MIRAIE」。

逆風に屈せず、良いと思ったことをやり続ける

その信念がいつか潮目を変える

村上 中川先生が開発されたwallstatとの出合いを振り返りますと、非常に感慨深いものがあります。私たち北洲は東日本大震災を経験して以来、繰り返される大きな地震からお客様の命を守るため、「サステナブル耐震®」を掲げ、構造の強化に徹底して取り組んできました。「サステナブル耐震®」とは、震災を風化させず、毎年少しずつでも耐震性能を向上させる技術を導入していこう、そんな思いから名付けました。

現在、北洲の新築住宅は、耐震等級3と制震装置を組み合わせた「サステナブル耐震®」を標準仕様としています。

中川 震災の教訓を形にし続ける、非常に重みのある取り組みですね。

村上 一方で、当初は「そこまでする必要があるのか」「コストが上昇してしまう」など、技術者や社内にも疑問視する声はかなりありました。また、従来の計算数値や仕様の説明では、その真の価値をお客様に伝えるのが難しいという悩みも抱えていました。

そんな時に出会ったのが、中川先生の「wallstat」でした。「サステナブル耐震®」の安心を、お客様に目に見える形でお届けできるようになったのです。

中川 本格導入していただいたことで、wallstatがツーバイフォーでも使用できることが証明されました。本当にありがとうございます。

村上 当時は著名な研究者や住宅業界でも、ツーバイフォーに耐震シミュレーションは過剰だという見方もありましたが、今や状況はずいぶん変わりましたね。

中川 私もwallstatを始めたときは、「解析を倒壊までやる必要があるのか」と反対する風潮がけっこうありました。でも、あきらめずに取り組み続けることで、潮目が変わったなとすごく感じます。

村上 私たちのDNAにも、通じるものがあります。もともと建材業をしていた創業者である私の父が住宅事業を始めて10年もしない1985年、北洲本州で初めて全棟で窓に樹脂サッシを採用しました。お客様とご家族の幸せや健康のために良いものは絶対にやる、やり続ければいつか認められるというのが北洲のDNAです。暖かい空間づくりや「サステナブル耐震®」でしっかりした建物を造ろうという点については、どこにも負けないぞという気概でずっと取り組んでいます。

中川 まさに信念ですね。

村上 先生がさまざまな環境下にありながらも、30年もの間、ずっと信念を持って取り組み続けてこられたことに改めて感銘を覚えています。これからも、先生が日本の住宅のレベルを引き上げてくださることを期待しています。そして私たち北洲も、オーナー様の住まいを1棟1棟しっかりと、誠実に作り続けることで貢献してまいります。本日はありがとうございました。

「悲惨な倒壊をなくしたい」という共通の信念。30年にわたり木造住宅の倒壊を研究し続ける中川貴文先生と、被災地で「命を守る家」を追求してきた北洲。先生が切り拓かれた技術を大切に活用させていただきながら、北洲は科学的な裏付けをもって日本の住まいに新たな安心の基準を刻みます。

中川貴文先生 × 北洲研究所長・石原 特別対談

本対談で触れたwallstatやサステナブル耐震®のさらなる詳細について、開発者の中川先生と弊社研究所長の石原が語り合います。記事と併せてぜひご覧ください。